昭和29年6月30日より開催審議されている【国土開発中央道調査審議会】における主なる問題点に対する質疑応答は以下のとおりです。

technical技術上の問題

  • Q1.

    赤石山脈(南アルプス)を超えることは地計上無理ではないか?

    本路線中1番の難所であって、従来そう考えられていたが、地形を按ずると次の略図、図-9のような天与の地形をなしており、標高も950m程度のところで2本の長大トンネルを抜けば横断できる。

    図-9 赤石山系横断付近略図

    図-9 赤石山系横断付近略図
  • Q2.

    山峡地帯では高速自動車道としてのカーブ、勾配が取れないのではないか?

    高速自動車道は一般道路と異なるので、できる丈地形に沿うて設計するが、地形上困難なところは、トンネル又はオープンカットで条件を満たし、勾配は迂回で処理して規格を厳に守った。しかし全般的にいって地形に沿うことができ、一番苦労したのは、精進湖から身延口へ下る間と、身延口から青薙のトンネルに取付く間であった。

  • Q3.

    長大トンネルは工事上及び換気上問題があると思うが?

    工事は地質によるが、最近のジャンボー等の最新施工法によれば、大体【9Km-3年】というところで貫通できよう。
    換気については確かに煩いが、本トンネルよりも大きな換気トンネル又は、本トンネルよりも多額の工事費を要する等ということはなく、換気トンネル、シャフト、送排風機建設費は、トンネル総建設費の30~35%程度で充分である。送排風機に必要な電気料金は、トンネル予定交通料金収入の6%以内にすぎない。

  • Q4.

    山峡地帯は積雪、濃霧等が高速交通の障害となるのではないか?

    雪については、この地帯は表にほんの最深積雪量の平均20cmの地域に属しており、一時的、場所的にはもちろん防除雪の必要があるが、全般として積雪量の多い地帯ではない。霧については高速交通の支障となる200~500m以上を見通せない濃霧は数えるほどしか発生していない。濃霧の発生はむしろ海と山の気流の直接ぶつかる箱根が多いのである。

  • Q5.

    山峡地帯ではカーブ、勾配、トンネルの連続で、速度が相当制限されるのではないか?

    区間ごとの設計速度に応じて、視距、カーブ及び勾配について速度障害の緩和を図るよう実際に当たって設計するものであるが、今八王子~中津川間についてみると、距離204.9Km、所要時間147分となっているが、建設省が障害区間及び制限速度を検討した結果、千木良~中津川間について距離195.2Km、所要時間137分として発表されたか、これを八王子~中津川間とすると143分となり、かえって本案の設計基準の正しいことを証明したこととなっている。

  • Q6.

    中央自動車道は登降率が多いからガソリン消費量が多くなって損である?

    他のルートとの比較になるが、八王子~中津川の約200Km間は登降率が多いが、東海道案のルートでも箱根越えがあり、さらに全線で焼く45Km延長が長くなっているから、ガソリン消費量は差し引き大差ないこととなる。(計画略)

  • Q7.

    金さえかければどんなことでも出来るがそれでは駄目だ?

    総事業費は1450億円で、Km当たり3億円となり、東海道案のルートを通るのと比べて大差はなく、寧ろ総建設費は安価となる見込みである。

expenses経費の問題

  • Q1.

    総事業費が1450億円というのは安過ぎはしないか?

    算出根拠は、1/10000地図のある処はこれより、他の処は1/50000地図及び正確なる模型によってプロファイルを作って工事数量を算出し、必要にして充分な平均単価を以って経費を算出したので、従来国鉄等では、鉄道新線建設予算はこの方法で算定し要求されている例もあり、この額より開きがでるのは、次のような場合である。

    1. 平均単価を取らず、不当な単価を取った場合。
    2. 土工について切盛バランスの経済的施工をせず、多量の残土処理又は稼土をすれば運搬費に食われる。又法勾配を緩やかにすれば、土量は多くなる。但しこの場合は擁壁石垣費を少なくすることができる。
    3. 本案のプロファイルによらず、ルートを変更し、又はトンネル及び橋梁延長を長くした場合。橋梁については溝渠、盛土で済む所も橋梁とすれば、経費はふくらむ。
  • Q2.

    5万分の1の地図で調査することは不正確ではないか、少なくとも1万分の1の地図を作成して正確なる調査をすべきではないか?

    5万分の1より1万分の1の地図が必ずしも正確とは申せない。5万分の一を5倍に拡大鏡で見れば1万分の1の地図と同じであるから差し支えはないと思う。運輸省でも5万分の1の地図で路線を調査しても甚だしい誤差を生じさせないと申されている。

  • Q3.

    建設省検討案と大きく異なる理由は?

    1:単価増、2:工事数量増の結果であり、その原因は前記の1.に述べた理由によっている。
    今これを他のルートの区間で比べてみると、東海道案の[東京~静岡間]が工事の絶対量は大きいが、その工事種類は、本案の[千木良~大月間]に大体似ているほか、その内容では、[東京~静岡間]は橋梁及びトンネルの何れも長大なものがあるのに対し、千木良~大月間はこれがない。
    従って、東海道案[東京~静岡間]のキロメートル当り3.5億円に対し、本案は2.5億円で当然この程度安かるべきを、建設省検討案では、4.3億円となって、東海道案よりも高くなっているのは常識的ではない。表-27を参照されたい。
    本案の総事業費の1450億円は、キロメートル当り3億円で、諸外国の例から見ても相当の高額であるから、充分な経費である。これ以上になるのは設計上又は施工上何等かの欠陥があることとなる。

    表-27 他のルート区間との比較表

    本案(千木良~大月間)
    費目 金額(千円)
    用地及補償費 178,990 24
    工事費 5,988,900 812
    土工費 2,678,900 (44)
    橋梁費 1,270,000 (22)
    水道費 2,040,000 (34)
    雑費 1,197,760 164
    7,365,650 1,000
    1Km当り 254,000
    延長(Km) 29,000
    本案に対する建設省検討案
    費目 金額(千円)
    用地及補償費 157,037 13
    工事費 9,514,000 797
    土工費 4,336,700 (45)
    橋梁費 2,802,300 (29)
    水道費 2,375,000 (26)
    雑費 2,283,263 190
    11,954,300 1,000
    1Km当り 431,000
    延長(Km) 27,700
    東海道案(東京~静岡間)
    費目 金額(千円)
    用地及補償費 3,945,000 69
    工事費 49,450,000 864
    土工費 20,804,000 (842)
    橋梁費 15,629,000 (31)
    水道費 13,026,000 (27)
    雑費 3,795,000 67
    57,199,000 1,000
    1Km当り 349,000
    延長(Km) 161,900
  • Q4.

    長大トンネルを口径9m一本で往還する設計では、正当な経費といえないのではないか?

    必要にして充分な施設であるべきで、この区間の推定交通量からいえば、トンネル単線で一日の交通量20000台のキャパシティがあるから、当分の間は充分である。将来予定交通量が更に増大した場合になってももう1本掘ればよい。

economic effect経済効果の問題

  • Q1.

    高速度道路は人口稠密で、現在一般道路及び鉄道の輸送の激しい所で、ここからの転換交通量を見込まないとペイしない?

    ペイするかしないかは、勢力圏内の転換交通量と、開発に伴う増か交通量を綜合的に推定していうべきで、その推定の結果は充分にペイする。
    併し、そういうことよりも吾国の経済状況、国土開発への要請、長距離輸送のスピード化、新たな交通体系の形成等の諸点を綜合的に考え、のぼ最も効果的な手段として、そのルートを決定し、その結果としてペイするか、しないかを考うべきである。

  • Q2.

    高速道路と開発道路は本来その目的、性格従って規格を異にしているので、高速道路を開発道路と兼ねさせるのは無理で且つ不経済ではないか?

    開発道路は、かくかくの規格と考えるのは、形式的な道路構造にとらわれた考えであって、単なる資源の搬出程度は別として、ここで意味するような綜合開発は高速交通路の開設によってこそ達せられるものである。この故に高速道路、即、開発道路とするものである。
    中央自動車道の場合は、他のルートではできない広い勢力圏を擁し、東、西、中部のほか、表、裏日本へ連絡する幹線路線ともなるのである。
    即ち、中央自動車道は、高速道路として、長距離及び中距離交通路となり、開発道路として国土開発を促進し、且つ広い範囲への幹線路線をなすという多目的性格をゆうしていることが特色である。独乙のアウトバーンがこの構想に立っている。
    開発道路を兼ねさせたため、高速輸送上支障があり、又必要交通量を著しく取残すというのでは不経済であるといえるが、そうしたことはないのであるから、多目的の利を採るべきである。

  • Q3.

    中央自動車道は国土開発を促進するといい乍ら、推定交通量からみると、開発に伴う増加交通量は案外少ないから、高速道路としてもっと有利なルートを選ぶべきである?

    当初は少ない。しかし開発計画の最終年度の昭和40年になると、全交通量の37.5%を占めるようになり決して少なくない。大体開発計画そのものが大きすぎると考えるのは当っておらず、京浜、中京、阪神に挟まれて、これ程の交通利便を得るならば、関連施策の宜しきを得、又これを遂行する国家意志がある限り、昭和40年目標の全国計画の構想上からみても到達せしむべき目標である。
    又交通量の推定については、(イ)転換交通量については、一定の転換率を定めて既存の交通量をごっそり転換させ、且つ年々一定率で増加する量をも加えて推定できるが、(ロ)増加交通量については、推定できない交通量、但しこの数字は相当に多いと予測せられる交通量を見逃さざるを得ないので、従って両者の推定は本来同一の結界を表していないわけである。
    ---------中央自動車道は、高速交通路としても何ら不利なことはなく、むしろ有利なのは、他のルートと比較して見れば判る。その原因、は幹線路線として広い勢力圏を擁しているからである。

  • Q4.

    トラック輸送には一定の距離限界があるから、開発物資は一定距離以上は鉄道を利用し、中央自動車道が必ずしも全面的に利用されないと思うが?

    貨物の種類に従って輸送限界があり、一定距離以上は鉄道がりようされて差し支えない。しかし開発は記述のとおり、森林資源等の搬出のみではないので適地産業の立地振興による工業製品、農畜産品があり、これらはその足が長く、京浜、中京、阪神に至るに丁度良い。
    それと貨物の種類に従って、その支払い得る最高運賃負担力があり、市場相場の急変に対処し、又資金効率の向上を図るため、高くついてもトラックの方が有利な場合が多く、即ちこの場合トラックの普通限界距離を越えてその足が延びる。たとえば木材についてみても、普通限界距離の70Kmがその倍以上に伸びる如き例である。

  • Q5.

    中央自動車道は採算的ではないと思うが?

    大いに採算的で、有料道路とすれば着工年度から24年、営業開始年度から19年で悠々と償還できる。

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